1NCEはドイツ発のIoT SIMサービスで、月額費用なしの買い切り型という料金体系が特徴です。
SORACOMとのコスト比較で気になったので、実際に購入・接続して特徴を確認しました。
この記事では、料金・購入時の制約・日本での電波環境・ローミングの仕組みをまとめます。

結論:1NCEが向くケース・向かないケース
1NCEが活きるのは、法人として多数のLTE-MのSIMを長期間使いたい用途です。
買い切りで月額がかからないため、送信頻度が低いIoTデバイスを長期運用するほどコストメリットが出ます。
一方で以下に該当する場合は向きません。
- 個人利用(法人限定サービスのため利用不可)
- 少量だけ使いたい(5枚以上の発注が必須、国際郵便でドイツから来るので送料が高い)
- データ可視化基盤もセットで使いたい(SORACOMの方が成熟している)
料金:2,200円〜で500MB・10年間の買い切り
料金は、サービス料 + SIMカード代でSIMカードは3種類から選べます。
何と言っても、月額費用がゼロなのが最大の特徴です。 500MBを10年かけて使い切るモデルなので、センサーデータのような小容量・低頻度の通信に向いています。
以下の料金は税抜です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス料 | 2,000円 |
| SIMカード代 | 200円〜400円 |
| 合計 | 2,200円〜2,400円(税抜・2026年3月現在) |
| データ容量 | 500MB |
| 有効期間 | 10年間 |
| 月額費用 | なし |
SIMカードは3種類から選べます。
| 種類 | 価格 | フォームファクター | eUICC |
|---|---|---|---|
| Business | 200円 | 3-in-1プラスチックSIM | なし |
| Industrial | 300円 | 3-in-1プラスチックSIM | あり |
| Chip Industrial | 400円 | チップSIM(はんだ実装) | あり |

eUICC(Industrial・Chip Industrial)は Freedom to Switch 機能に対応しており、デバイスを回収・交換せずに通信キャリアのプロファイルをリモートで書き換えられます。
主にパーマネントローミング規制への対策として有効です。 ホームネットワークが海外にある1NCE SIMは、展開先の国では常にローミング状態になります(詳しくはローミングの仕組みとデータ経路を参照)。 ブラジル・インド・トルコなど一部の国では、合法的傍受(Lawful Intercept)の担保や国内通信事業者の保護を理由にパーマネントローミングを規制しており、Freedom to Switchで現地キャリアにプロファイルを切り替えることで規制をクリアできます。 日本国内のみで使用する場合は、この機能を使う機会はほぼありません。
Chip Industrialはデバイス基板に直接はんだ付けするタイプです。 差し込み口が不要になるため、防水・防振が求められる屋外設置のデバイスに使われます。
購入前に知っておくべき3つの制約
法人限定サービス
1NCEは法人向けサービスです。購入時に会社情報の登録が必要で、個人での契約はできません。
これに対して、SORACOMは個人での購入も可能なので、個人のホビー用途や個人事業主としてLTE通信ができるIoTに関わっていきたい場合は、SORACOMの方が良いでしょう。
ドイツ発送・送料は割高
SIMカードはドイツから発送されます。 今回1枚だけ注文しましたが、送料は1,800円で、国内発送のSIMと比べると割高でした。
SIM代と合わせると、4400円(税込)かかります。 枚数が少ないとコストメリットが落ちていくので、ある程度まとめて発注するのが良いでしょう。
発注から到着まではおよそ1週間かかりました。

2回目以降は5枚以上から
初回は1枚から購入できますが、2回目以降の発注は5枚以上が最低ロットになります(2026年3月現在)。
そのため、1〜2台の小規模検証から始めて追加したい場合は、まとめて購入するか別のSIMサービスを検討する必要があります。
日本での電波:SoftbankとKDDIに対応
日本では1NCE SIMはSoftbankとKDDIのネットワークでLTE-Mに接続します。
Wio BG770AでSoftbankとKDDIそれぞれに実際に接続して確認したところ、SoftbankはBand 1(2.1GHz帯)とBand 8(900MHz帯)、KDDIはBand 18(800MHz帯)に接続しました。いずれも各キャリアの主力周波数帯で、カバーエリアは広いです。
Wio BG770Aで実際に1NCEネットワークへの接続と通信品質を確認した記事もありますので、興味がありましたら読んでください。
また、日本ではNB-IoTに対応していないので、IoTの場合はLTE-Mで使用することになります。 カバレッジのリスト
1NCEの通信経路とデータ管理機能
ローミングの仕組みとデータ経路
1NCEは、ドイツテレコムの通信網を使用するMVNO(仮想移動体通信事業者)です。
届いたSIMのIMSIが、 90140 で始まっていることからもこれが裏付けられます。
IMSIは、MCC(国コード)+ MNC(キャリアコード)+ 加入者番号で構成されており、901-40 はDeutsche Telekom(ドイツテレコム)のグローバルSIMを示します。
日本ではSoftbankまたはKDDIの電波を借りてローミング接続しますが、通信の論理的なホームネットワークはドイツにあります。
ローミングの仕組み上、デフォルトではIoTデバイスから送信されたデータはいったんドイツのゲートウェイ(PGW)を経由してからインターネットに出ます。
物理的には日本にいても、データの経路はドイツを通ります。

この構成には2つの問題があります。
1. データが国外を経由する 企業のセキュリティポリシーや業界規制によっては、通信データが国外に出ること自体がNGになる場合があります。 製造業・医療・金融などの業種では事前に確認が必要です。
2. レイテンシーが増加する 日本→ドイツ→宛先サーバーという経路になるため、レイテンシーが国内完結の構成より大きくなります。 センサーデータの低頻度送信であれば実用上問題になることは少ないですが、リアルタイム性を要求するユースケースでは注意が必要です。
ローカルブレークアウト
上記の問題を解決するのがローカルブレークアウトです。
ローカルブレークアウトを有効にすると、U-Plane(ユーザープレーン)の出口がホームネットワーク(ドイツ)から訪問先ネットワーク(日本)に切り替わります。 この設定により、デバイスのデータがドイツを経由せず、日本から直接インターネットに出るようになります。
ただし、C-Plane(制御信号)は引き続きドイツのホームネットワークを経由します。
モバイル通信では、端末はC-Plane(制御信号)でコアノードとの接続を確立してから、U-Plane(ユーザープレーン)でセンサー情報などを送る仕組みになっています。 そのため、C-Planeで行われる認証・位置登録・セッション管理は毎回ドイツを経由し、ローカルブレークアウトの設定は影響しません。

ローカルブレークアウトの設定は1NCEのポータルから行います。自動モード(自動地域選択)と手動モードがあり、手動では東京・フランクフルト・サンパウロ・北バージニア・北カリフォルニアから選択できます。

1NCE OS + Datacake でデータ保存・可視化
1NCEは自社プラットフォーム「1NCE OS」を通じてデバイス管理やデータルーティングに対応しています。
1NCEは通信ネットワーク、1NCE OSはそのネットワークの上でデバイス管理やデータの保存、可視化などを行うサービスです。
1NCE OSが提供するサービスは、1NCEではなく、外部のSaaSベンダーが提供していることには注意しましょう。 1NCE OSはデータを中継するハブです。 例えば、Datacakeと連携することで、SORACOMのHarvest Data + Lagoonに近い構成(データ蓄積 + ダッシュボード可視化)を組むことができます。
ただし、1NCE OSの機能には制約があります。Device LocatorとInsights以外のOS機能は、ブレークアウトリージョンが Europe (Frankfurt) または US East (N. Virginia) に設定されている場合のみ利用できます。東京をブレークアウトポイントにしている場合、使えるOS機能が限られる点に注意が必要です。

まとめ
本記事では、1NCEの料金と技術的な特徴をまとめました。
1NCEは月額費用なしの買い切り型が最大の特徴で、低頻度送信のデバイスを長期運用するほどコストメリットが出ます。
ただし、法人限定・ドイツ発送・2回目以降5枚以上という制約があるため、少量からの検証に使いたい場合はSORACOMの方が扱いやすいでしょう。
また、デフォルトでは通信データがドイツを経由するため、製造業・医療・金融などの業種では導入前に確認が必要です。



